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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)100号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び本願発明1の要旨が審決認定のとおりであること、第一引用例に審決認定の考案(先願考案)が記載されていること、本願発明1と先願考案の相違点及び一致点(相違点を除いた構成)が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由(2)(3)について検討する。

1 成立に争いのない甲第五号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明1、特に審決認定の本願発明1と先願考案との一致点及び相違点(2)(3)に係る構成について、次のように説明されていることが認められる。

すなわち、まず、「光ケーブルを構成する場合には、伝送素子の中に使用されるガラスフアイバの引張り応力、圧縮応力及び曲げ応力に対する弱さを考慮に入れる必要がある。」(同号証三欄一六ないし一九行)ことを前提に、本願発明1の目的は、「あらゆる種類の引張り応力、圧縮応力及び曲げ応力に対して充分に保護された伝送素子を有する光通信ケーブルを得ること」(同三欄三三ないし三五行)にあり、この目的を達成するために、前示当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲1の構成を採用したことが述べられ、次いで、この構成を有する本願発明1の光ケーブルの効果につき、「このように構成された本発明の光ケーブルにおいては、光伝送素子は公知のケーブルにおけるように他の光伝送素子と、又ケーブル心の他の素子と固く結合されておらず、ケーブル心の他の素子と固く結合された放射状の収納室の各々の中に個別に可動的に配置されている。このように光伝送素子そのものは他の光伝送素子から分離され、しかもケーブルの心とも剛く結びついていないから、光伝送素子にはなんら許容できないような高い機械的応力が加わることはない。従つて引張り応力は、その殆んどが鋼線より成る抗張心線によつて受けられる。この場合心線に弾性的延びが生じても、光伝送素子のらせん半径の低減、即ち伝送素子と抗張心線との半径方向の距離の低減を生ずるだけである。」(同四欄一ないし一五行)として引張り応力に対応できることを説明し、次に、「本発明の光ケーブルに圧縮応力が作用した場合、圧縮力は外被を介して放射状の収納室および抗張心線へ伝達されるが、この場合光伝送素子はその収納室内において他の部材に束縛されることなく自由に動きうるようになつているから、光伝送素子には応力が及ばない。ケーブルに曲げ応力が加わる場合にも光伝送素子は放射状の各収納室内で自由に移動できるのでその都度の曲げに対応することができる。」(同四欄二四ないし三二行)として圧縮応力や曲げ応力に対応できることを説明し、さらに、「光伝送素子の完全な機械的保護は、光伝送素子を収容する放射状の収納室がらせん状に心線の周りを取巻くこと、従つて、ピツチ長を有することにより得られる。」(同四欄三三ないし三六行)として、放射状の収納室がらせん状に心線の周りを取巻く構成が前示の光伝送素子が抗張心線を有する放射状の収納室の各々の中に個別に可動的に配置されている構成とあいまつて、光伝送素子をあらゆる種類の応力に対して充分に保護することができる旨を説明している。

本願明細書の右の説明によれば、本願発明1は、特に、光伝送素子用収納体の中心に鋼線よりなる抗張心線を有すること、この光伝送素子用収納体はケーブルの中心線の周りにらせん状に配置された複数の収納室を備えること、光伝送素子はそれぞれ自由に動きうるように各収納室内に配置されることの三要素を有機的に組み合わせることによつて、右の効果を奏し、もつて前示目的を達成したものであると認められる。

2 これに対し、先願考案は、前示相違点(2)に示されるとおり鋼線よりなる抗張心線を有せず、かつ、相違点(3)に示されるとおり収納室がケーブルの中心線の周りにらせん状に配置されることについて言及されていない点において、本願発明1とその構成を異にするものであることは、当事者間に争いがない。

審決は、右相違点(3)につき、光通信ケーブルにおいて撚りを設けないこと及びこれを設けることはいずれも周知であることを理由に、第一引用例には収納室をケーブルの中心線の周りにらせん状に配置することが記載されている旨述べる。そして、成立に争いのない乙第二号証によれば、ケーブルにおいて、「電気的安定性向上、可とう性付与、占積率向上(小さい外径に多心を収容)のため、単心ケーブルを除きそのほとんどが線心群を種々の方法でより合わせる」(同号証三〇頁本文末行、三一頁一行)ことが本願優先権主張日前周知であつたことが認められるが、その対象とするケーブルは光通信ケーブルではなく、また、本願発明1や先願考案のように、もつぱら光伝送素子の保護を目的とし、占積率向上を目的とせず、光伝送素子が自由に動くことができるような空間を有する収納室を備えた光伝送素子用収納体を配置したことを前提とするものでないことが明らかであり、これを同列に論じることはできない。したがつて、光通信ケーブルでないケーブルにおいて線心を撚り合わせたものが周知であることをもつて、直ちに先願考案の収納室がらせん状であるとすることはできない。

また、成立に争いのない乙第一号証によると、本願優先権主張日前に公開されたドイツ連邦共和国特許出願公開第二三四七四〇八号明細書には、本願発明1の光伝送素子及び先願発明のフアイバーユニツトに相当するストランドにつき、中央の細長い合成樹脂の線の周りに等間隔に突起を設け、この突起は製作及び又は組立の際に幾分長さ方向に捩れるように配置され、隣接突起間に形成されるチヤネル内に光フアイバを収納し、これらを光フアイバが移動できない状態で合成樹脂製シース内に装入した構成が開示されていることが認められる。しかし、この構成が採用されているのは、前叙のとおり光伝送素子であつて光通信ケーブルそのものではなく、また、右突起間のチヤネルは光フアイバが自由に動くことができるような空間を有するものではない。したがつて、右明細書に開示されているところを根拠に、第一引用例に先願考案の収納室がらせん状であることが記載されているということはできない。

さらに、成立に争いのない甲第六号証の二によれば、第一引用例には、前示当事者間に争いのない審決認定の先願考案の構成から、「本案はスペーサによつて作られた比較的自由な空間に一本又は複数本のフアイバーを束ねたユニツトを収容することにより各フアイバーはその中で曲げによる伸びや収縮を吸収することが出来るので、フアイバーにかかる張力が軽減されフアイバーの破断を防止する」(同号証の二の二頁一〇ないし一五行)との効果を奏することが記載されているが、この効果はスペーサが長手方向にらせん状でなく平行に配置されていても奏することができる効果であることは明らかであり、この記載に基づいて、被告主張のように先願考案においてスペーサをらせん状に配置することが当然に予定されているということはできない。

その他、第一引用例に先願考案の収納室がらせん状に配置されていることが示されていると解することのできる資料は、本件全証拠によつても認めることができない。

3 以上のとおり、相違点(3)の収納室のらせん状配置につき本願発明1と先願考案とはその構成を異にするものであるから、仮に相違点(2)の抗張心線の有無が、審決の述べるとおり、単なる周知技術採用の有無にしかすぎないとしても、第一引用例には、本願発明1の前示三要素の有機的な組み合わせの構成を開示するものということはできない。

したがつて、相違点(1)、(4)につき検討するまでもなく、本願発明1が第一引用例に記載された先願考案と同一であるということはできず、これを同一とした審決の判断は誤りであり、審決は違法として取り消しを免れない。

三 よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。

〔編註その一〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

1 鋼線よりなる抗張心線の周りに熱可塑性合成樹脂より成る光伝送素子用収納体を配置し、この光伝送素子用収納体はケーブルの中心線の周りにらせん状に配置されかつ放射方向に開口を有する複数の収納室を備え、光伝送素子はそれぞれ自由に動き得るように各収納室内に配置され、収納室の開口は被覆体により覆われ、被覆体はさらに外被により覆われていることを特徴とする光通信ケーブル。(別紙第一図面参照)

2 引延ばして案内される抗張心線が一定の回転数でもつてその固有軸線の周りに撚回され、この抗張心線上に光伝送素子用収納体が形成され、次いでこの光伝送素子用収納体の有する複数の収納室内にそれぞれ光伝送素子が挿入され、しかる後収納室上に被覆体が設けられ、被覆体上にさらに外被が設けられることを特徴とする光通信ケーブルの製造方法。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙第一図面 本願発明の光ケーブルの一実施例の断面図

<省略>

別紙第二図面 先願考案のケーブルの断面図

<省略>

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